さくらの杜の桜のはなし

其の六世界のトップブランド、染井吉野(ソメイヨシノ)の秘密

春に咲く桜の代名詞にさえなっていて、海を渡り、いまや世界中にも数え切れないほど植えられている染井吉野(ソメイヨシノ)。元をただせば、江戸の植木職人が江戸彼岸(エドヒガン)系の桜と大島桜(オオシマザクラ)を交配して作った雑種です。植木市として著名だった染井(現在の豊島区駒込)で売り出されて、そこから日本全国に広まりました。当初の商品名は「吉野桜」でした。
1900年、藤野寄命博士が「吉野桜は山桜であり、染井の植木市で売られている桜は山桜ではなく別な種である」と指摘して、それから頭に染井を冠した「染井吉野」に改名されて現在に至っているそうです。

ちなみに、在来の山桜との違いをもう少し述べると、決定的な違いは「葉に先立って花を咲かせる」というあたりです。
冬を越した枝がいきなり花をつけることから、本格的な春の訪れを告げる花として爆発的な人気を呼び、桜といえばソメイヨシノというように全国に広まっていきました。

しかし、ソメイヨシノはいわゆるハイブリッド(一代雑種)なので、種子からは発芽しません。そこで「接ぎ木」や「挿し木」で増やすことになりますが、その結果、莫大な数の子孫が増え続けることになりました。
つまり、もともとは限られた数の原種から増え続けたわけなので、国内はもとより全世界に分布しているソメイヨシノのほとんどは同じDNAをもつ分身ということになります。その数がどれほどかを想像すると怖いくらいですが、同時に、百数十年前の昔に江戸で作られた交配種の分身が、世界中に根付いているという事実からは誇らしささえ感じます。
まさに日本が生んだ大ヒット桜、「ソメイヨシノ」は世界に冠たる一大ブランドと言えそうです。