さくらの杜の桜のはなし

其の八記憶のなかの情景を呼びさます桜貝のうた

「うるわしき桜貝一つ、去り行ける君に捧げん」

作詞・土屋花情、作曲・八洲秀章の大ヒット作、『さくら貝の歌』の歌詞はこの一節から始まります。昭和24年にNHKのラジオ歌謡曲として巷に流れ、翌年にはレコードが発売されました。最初に唄った歌手は辻輝子さんで、その後は倍賞千恵子さんや鮫島有美子さんなど、長くいろいろな人々に唄いつがれてきた名曲です。

この歌のヒットのおかげでしょうか。ピンク色の可愛いらしい桜貝が大好きという人は珍しくありません。集めた貝殻を小瓶に入れて窓辺に飾っていた(いる)という人も少なくありません。 ちなみに桜貝は、ピンク色の二枚貝の総称になっていますが、正しくはニッコウガイ科の二枚貝の一種だそうです。

赤ちゃんの指の爪にも喩えられる可憐な風情は、昔から多くの歌人や俳人に愛されてきました。 たとえば、俳人・松本たかしもその一人です。桜貝を詠んだ句が幾つかあります。

「ひく波の跡美しや桜貝」

「春寒や貝の中なる桜貝」

......などは、誰しもが記憶のなかにしまってある情景でしょう。